環境か、自分か ―― 転職エージェントの視点から考えるキャリア
2026/7/8著者【ツナグンエージェント】赤坂 貢平

年間400名近くの保険募集人さまと面談する中で、いつも考えることがあります。
「キャリアが広がっていく人」と「停滞してしまう人」を分けているものは、何なのか。
元ソリシター、そして現在は転職エージェントという二つの立場から、 できるだけ率直に整理してみたいと思います。
私は日頃、保険業界に特化した転職エージェントとして、 年間400名近くの保険募集人と面談しています。
もっと稼ぎたい方、環境を変えたい方、人間関係に疲れた方、自由を求める方、 リーズが欲しい方、教育環境を求める方、マーケットに悩む方―― ご相談の背景は、本当にさまざまです。
そして当然ながら、「何を軸に環境を選ぶか」も、人によってまったく異なります。
ですからまず大前提として、“何が正しいか”は、一概には言えません。
会社への所属意識を重視する方もいれば、とにかく自由を求める方もいる。 自己成長を求める方もいれば、ワークライフバランスを重視する方もいる。
どれも、その人にとっての正解です。
これから書く内容も、日々の面談で相談者の方に対して思うことを述べる、 という意図ではありません。
むしろ、ソリシターとして現場で見てきたこと、 仕事を離れた場で募集人の方々と交わす会話、業界の空気感、そして自分自身の失敗や反省―― そうしたものを含めて、いま私が業界に対して感じていることを整理したもの、 と受け取っていただければ幸いです。
1.「環境を変えれば解決する」とは限らない
最近、こうしたご相談が本当に増えています。
「今の代理店は控除が高い」「もっと還元率のよいところへ行きたい」 「もっと自由な環境で働きたい」。
お気持ちは、よく分かります。 実際、環境選びは非常に重要です。
ただ、一点だけ注意が必要です。
たとえば年間売上300万円の方が、控除30%の代理店から控除20%の代理店へ移ったとします。 しかし、その差額は年間で30万円ほど。
もちろん30万円は大きい金額です。 それでも、本当に人生が変わるレベルで収入を増やしたいのであれば、 売上そのものを伸ばさない限り、大きくは変わりません。
これは募集人に限った話ではありません。 保険業界は、ソリシターも内勤も含めて、業界内でのスライド転職が非常に多い世界です。
私自身、ソリシター時代に「この会社は評価制度が」「今の会社は商品が」「上司が」「文化が」 という声を、数え切れないほど聞いてきました。
もちろん、それで本当に環境が改善するケースもあります。
一方で、会社は変わったのに、また同じ不満を口にし始める方も少なくありません。
理由は、仕事の“核”そのものは、実はあまり変わっていないからです。
ソリシターであれば、代理店と向き合い、数字を追い、社内を調整し、人間関係を築く。
募集人であれば、見込み客を探し、提案し、時に断られ、継続してフォローする。
仕事の本質にあたる部分は、どの会社へ移っても大きくは変わりません。
「今の不満は、本当に環境の問題なのか」
――この問いは、一度立ち止まって持ってみる価値があると思います。
仕事の核を掴み切れていないために、どの環境へ行っても苦しくなっている、 という可能性もあるからです。
もちろん、負担の大きすぎる環境は変えた方がよいですし、 合わない会社から離れることも大切です。
ただ、「環境さえ変えれば人生が変わる」という発想には、慎重でありたいと考えています。
2.自由と甘えは、分けて考えたい
面談を重ねる中で感じるのは、伸び悩んでいる方ほど、 「出社したくない」「人と関わりたくない」「管理されたくない」「自由にやりたい」 という思いが強い傾向がある、ということです。
それ自体を否定するつもりはありません。 ただ、自由と甘えは、分けて考えたいとも思います。
保険営業は、人と会い、人から刺激を受け、人から情報を得て、 人と比較され、人に揉まれながら強くなっていく仕事だと、私は考えています。
とりわけ最初のうちは、「すでにうまくいっている人を真似ること」が非常に重要です。
売れている人の話し方、提案の流れ、紹介のいただき方、保全対応、時間の使い方―― 近くで見て、学び、真似て、修正していく。その積み重ねが力になります。
にもかかわらず、最初から「自由にやりたい」「縛られたくない」 「出社したくない」「人と関わりたくない」となると、成長の速度はどうしても落ちてしまいます。
もう一点。人以上の成果を出そうとすれば、ある程度の時間の投下は避けられません。
もちろん効率化は大切ですし、AIも積極的に使うべきです。 それでも、人並み以上に稼ぎたいのであれば、人並み以上に時間を投じる必要がある。
これは、多くの仕事に共通することだと思います。
この業界では、「時間の自由」「高収入」「一発逆転」といった言葉が語られがちです。
実際、それを実現している方もいます。ただ、その方々も、最初から自由だったわけではありません。
人並み以上に動き、人並み以上に失敗し、人並み以上に働いて積み上げた結果として、 後から自由を手にしているのです。
自由とは、先に責任と努力を払った人が、後から受け取れるものだと、私は常々自分にも言い聞かせています。
3.組織に所属するということ
もう一つ、大切にしたい視点があります。
代理店は、結局のところ「組織」だということです。
たとえば「週1回は必ず出社」「週1回は勉強会」「ロープレ必須」といったルールを 設けている代理店があるとします。
それに対し、 「出社は嫌だ」「ロープレは避けたい」「管理されたくない」という声が上がることもあります。
しかし本来、その組織はそのルールで成果を出そうとしているわけですから、 そこには一定の折り合いが必要になります。
この業界には、募集人と代理店が「持ちつ持たれつ」でやってきた特殊性があり、 「個人事業主だから自由」「ある程度は自分のやり方で」という空気が、 長く受け入れられてきた面があります。
ただ、多くの募集人は、独立して自ら会社を経営しているわけではありません。 その代理店の手数料ポイント、福利厚生、ブランド、マーケット、ノウハウ、集客―― そうした恩恵を受けながら仕事をしています。
であれば、組織が定めるルールや仕組みの中で働くことは、自然な前提です。
「ルールには従いたくない、けれど高い還元率も、マーケットも、福利厚生も、自由も欲しい」 というのは、一般的な社会感覚に照らすと、なかなか成り立ちにくい要求だと思います。
この業界では、これまでその点がかなり緩やかに扱われてきました。
しかし今、規制強化が進む中で、本来は特殊だったその働き方が、 少しずつ許容されにくくなっています。
規制強化の直接の目的は別にありますが、 結果として、「組織に所属する以上、組織のルールに従う」という、 本来当たり前だった前提へ、業界全体が戻され始めている印象があります。
業界が長い方ほど、「これまでが特殊だった」という視点を、 一度持ってみる意味はあるのではないでしょうか。
4.活躍する人は、結局どこでも活躍する
こう書くと、「転職エージェントが環境選びを否定するのか」と感じる方もいるかもしれません。
決して、そうではありません。むしろ逆で、環境は非常に重要だと考えています。
ただ、「環境が何かを与えてくれる」と期待しすぎることには、注意が必要だと思うのです。
数字を作れる方は、結局どこへ行っても数字を作ります。
反対に、そこが定まらないうちは、「もっとよい環境があるはず」を探し続けてしまいがちです。
もちろん、環境との相性はあります。
向いている会社、向いていない会社。 積み上げやすい環境、そうでない環境。それは確かに存在します。
だからこそ私も、その方の価値観や性格を丁寧に伺いながら、 「この方はどこでなら積み上げやすいか」という視点で転職支援を行っています。
環境とは、何かを与えてくれる存在ではなく、「自分が積み上げるための土壌」です。
その土壌の上で、どう動くか、何を学ぶか、誰と関わるか、どれだけ時間を投じるか。 最後には、そのすべてが自分に返ってきます。
ですから、「どの代理店が最も強いか」よりも、 「自分はその環境で何をするのか」の方が、本当はよほど重要なのだと思います。
5.おわりに
繰り返しになりますが、私は環境選びそのものを否定したいわけではありません。
ただ、キャリアが停滞している理由を、会社や環境だけに求めているうちは、 なかなか道は広がっていかない
――そう感じています。
そして、これは最近特に強く思うことです。 今後この業界は、外部環境の変化によって、思い描いていた環境そのものが 大きく変わっていく可能性があります。
代理店が掲げていた方針、報酬体系、取り組み、働き方―― それ自体が、外部環境の変化に応じて姿を変えていくかもしれません。
規制強化の流れを見ても、この業界は今後、一部の突出した営業だけでなく、 多くの組織人によって支えられる方向へ、少しずつ移っていくと思います。手数料の平準化をめぐる議論も、その一つでしょう。
「好きなように働ける完全な自由業」というイメージは、少しずつ現実的なものへと変わっていく。 だからこそ、これからはますます、どこへ行くかだけでなく、 「どう働くか」が問われるようになるはずです。
何が正しいのか、最終的な答えは誰にも分かりません。 だからこそ、互いの考え方の違いを尊重しながら、 それぞれが自分なりの正解を探していけたらと思っています。
皆、悩みながら、日々を懸命に働いているのですから。
このコラムが、業界で奮闘する誰かの背中を、少しでも支えられれば幸いです。
コメント
まだコメントはありません。最初のコメントを書いてみませんか?
